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ストレスに耐えるための医療者のセルフケア

(Stress Management for Medical Professionals)
 (社)地域医療振興協会 石岡第一病院内科 舘有紀


茨城県にある石岡第一病院内科の舘有紀です。

「ストレスに耐えるための医療者のセルフケア」
というテーマで少しお話させていただきます。

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管理人ちーひめ注:

この一連の記事は全て、以下のシンポジウムにおける
舘有紀先生の発表原稿をアップしたものです。

日 時:2007年7月7日(土)15:00〜18:00
場 所:ホテル日航茨木
茨木市中穂積1丁目1番10号 

【シンポジウム】15:15-17:00
〜医療人の心を守る:医師のための職場メンタルヘルス〜

医療者が心を病む原因

 1)理想と現実のギャップ
 2)過酷な労働条件
 3)世間の医療を見る目の厳しさ



今、心を病んでいく医療者が増えています。

理由としては、
理想と現実のギャップ、過酷な労働条件、
また、世間の医療を見る目の厳しさもあります。

最近では医師不足が前面に出てきたため、
以前ほど医療不信を煽るような報道は
少なくなりましたが、
まだまだ、この問題は大きいと思います。

患者さんへの対応が困難だった症例

70代 男性 肺癌末期
 発見時にはすでに手遅れの状態
 医療不信が強く、信頼関係を築くのが困難だった


症例を一つ、提示します。

70代、男性、肺癌末期。
発見時にはすでに末期の状態でした。

近くの開業医さんで発見され、
紹介されて入院してきましたが、混乱が強く、
「今まで健康だったのに、なぜこんな病気になるんだ!」
と、怒りの矛先が医療者に向きました。

手遅れになるまで発見できなかったこと、
治せないことなど、医療全般に対しての不信を訴えられ、
非常に対応困難な状態に陥りました。

このような状態が長く続くことは
医療者側にとっては、大変なストレスです。

自分のための医療を行っていたのでは?

 対応策 ・問題を一人で抱え込まないこと
      ・スタッフ間で共有し、話し合うこと
 結論 「自分のための医療を行っていたのでは?」



このような場合は、
問題を一人で抱え込まないこと、
スタッフ間で話し合い、問題を共有することが大切です。

辛いのは自分だけではなかったと知ることで、
ストレスは半減します。

その話し合いで見えてきたことは、
まず心理的な距離を作り出していたのは、
私たち医療者の方ではないだろうか、ということでした。

これ以上関係が悪化しないように、
患者さんに必要以上に気を使っていました。

つまり、「自分たちのための医療ではなかったか」
という気づきでした。

医療に心が伴っていなかったわけです。

これに気付いた瞬間に、私も含め、
他のスタッフたちも心の重荷が消え、
気負いがなくなり、その後、
驚くほど関係が改善していきました。

いわゆる、合わせ鏡の論理です。

人間対人間の関係というものは、
表面だけ取り繕っていても、
なかなかうまくいきません。

相手を変えようと思うよりも、
まず自分を振り返る方が近道であることがあります。

もちろんこの方法は、
一般的な診療における話ですので、
境界型パーソナリティ障害などの特殊なケースに関しては、
以下のサイトの泉先生のお話を参考にして下さい。

新しい精神医療からみた境界性パーソナリティ障害
(境界性人格障害)

医療者のバーンアウトの原因

 1)能力の限界を超えた状態が長く続く場合
 2)自分のための医療を続けている場合


さて、このような問題を一人で抱え込んでいると、
ときにバーンアウトしてしまうことがあります。

バーンアウトの原因としては、どの仕事も同じですが、
自分の能力の限界を超えた状態で、
長い間、頑張り続けた場合。

もう一つは、自分のための医療を続けている場合です。

自分のための医療というのは、
例えば、必要以上によく思われたい心、
自分への賞賛や評価を求めすぎる心です。

これがいき過ぎると、
不安、焦燥感や嫉妬心などで自分が苦しむことになり、
心が疲弊してしまいます。

エネルギーを浪費する心の姿勢、
つまり自分のための医療になっていないかどうか、
客観視することも大切です。

患者さんとの距離の取り方

「患者さんと仲良くなる?」
  →自信のなさを埋めるために、
   心理的な距離を近づけることで
   代償してしまうことがある


評価を求める、という観点で、
別のたとえを出したいと思います。

医者になったばかりの頃は、
患者さんとの距離が近くなりがちです。

自分の医療に自信が持てない場合、
自信のなさを埋めるために、
心理的な距離を近づけることで
代償してしまうことがあります。

これもまた、自分のための医療です。

そして医療者側のそのような無意識の心は、
ときに患者さんに依存する心を
生じさせてしまうものなので、注意が必要です。

患者さんに近い立場だと、
いい医者だと評価されることも多いでしょうが、
それが代償行為ではないかどうかのチェックは
必要ではないかと思います。

医療者自身の課題の表面化

「医療現場で人の問題に関わっていると、
医療者自身の課題が表面化してくることがある」



このように医療現場では、
人の問題に関わっているはずなのに、
往々にして、医療者自身の課題や心の問題が
表面化してくることがあります。

冒頭の症例もそうでしたが、
患者さんとの関係が今ひとつの場合、
もしかすると問題は私たち医療者の心にあるかもしれない、
という観点から見つめていくことも大切です。

例えば、こういうこともあります。

本来は入院適応の人を、夕方になって受診したため、
入院させないでお薬だけ処方して
帰してしまうこともあるでしょう。

忙しいと、適当になってしまうこともあります。
患者さんより、自分の方を優先した診療行為を、
割り切ってやれる人ならいいのですが、
後で、「こうしてあげればよかったなあ」とか、
「入院させておかなくて大丈夫だったかなあ」
と後悔するタイプだと、それだけで心が疲れてしまうのです。

こういう、ちょっとした患者さんとの関わりの中で、
自分自身の課題が発見できますので、
逆照射して振り返ってみることも必要だと思います。

患者さんからの不満をどう考えるか

患者さんの個人的な問題が、医療現場で
不満という形で噴出することがある
不満の奥に隠された心の流れを
もう一段深く見つめること

 

さて、今までは
医療者サイドの問題を述べてきましたが、
今度は、患者さんに視点をあてます。

医療現場ではよくあることですが、
患者さんの個人的な問題が、不満という形で
出てくることがあります。

やり場のない怒りを、医療従事者に向けてきます。

怒る原因は、もちろん医療者側にもありますが、
個人的な問題であることも意外に多いのです。

これに気付かないと、
医療者は批判をダイレクトに受けてしまうので、
心身共に疲れきってしまいますし、
人に対して失望してしまいます。

ですから、もしかするとこの苦情や不満は、
形を変えたものかもしれないと
心の片隅に置いておかれるといいと思います。

自分たちも結構よくやっているな、
と思うのに、不当な不満をぶつけられたときは、
決して落ち込まずに、
何が不満の原因だろうかと
合理的に分析する作業が必要です。

こういう問題も、スタッフ間で話し合い、
共有することが大切です。

患者さんの愚痴への対応

患者さんからの愚痴、不定愁訴に
どう対処するか

 
今言った、
患者さんからのクレームだけではなく、
日常診療における患者さんからの
愚痴や不定愁訴も、なかなか医療者にとっては
ストレスが大きいと思います。

長い時間、愚痴を聴き続けるという行為は、
疲弊します。

このような場合、
私たちは一種の防衛策として、
患者さんを心の中で切ってしまうことが
多いように思います。

心の中で切って、割り切れると、
心を乱さずに対応できますので、
そうしている場合も多いでしょう。

逃げない姿勢はそれだけで力を持つ


「患者さんとの関係を心の中で切らない」
   この心の姿勢は、驚くほどに力を持つ



確かに気持ちの上で
切ってしまった方が楽なのですが、
その割り切るという姿勢が
ストレスになる場合があります。

私自身がそのタイプだったのですが、
いつもちょっと逃げ腰で愚痴を聞くのも辛いし、
割り切るのも罪悪感が出てくる。

で、どう対処したか、ということですが、
非常に逆説的なのですが、私は思いきって、
患者さんとの心の関係を切らない、
という姿勢に変えました。

逃げないで、
ほんのちょっとでもいいから本気で関わってみようか、
という気持ちに変えました。

すると、どうなったかということですが、
多くの場合、患者さんがよりよく変わっていくのです。

こちらが逃げない姿勢を出したとたんに、
不定愁訴が減ったりするのです。

説教したわけでもないのに、
努力して生活習慣を変えてくる人もいるわけです。

もちろん、右肩上がりばかりではありません。
株みたいに上がったり、下がったりですが、
長期的な視野でいくと、着実に上がっていくわけです。

この人、難しいなあ、
どうかなあと思いながらも、あきらめないで、
せっかく縁会って出会ったのなら、
何とかならないかな、と思って関わっていると、
時間の経過とともにこちらが驚くほど
よくなるケースがたくさん出てきます。

これは意識してやっていると、よく分かります。

こういう体験を積むと、
ストレスだと思って聴いていた愚痴というものが、
また違った形で見えてきます。

物語医療


★診断における重要な部分は
「患者が語る物語」に隠されている
★医師として行っていることの多くが、
物語を中心に展開されている
★患者は自分の病気について話す
★医師も自分の言葉で話を繰り返す
★病気そのものも、物語として展開される


     大前研一著 「ハイコンセプト」より


これを物語医療の概念から考えると、
実は愚痴や不定愁訴の中には、宝物が隠れている
ということになります。

ハイコンセプトという大前研一さんの本に、
物語医療に関しての言及があります。

診断における重要な部分は
「患者が語る物語」に隠されている。

医師として行っていることの多くが、
物語を中心に展開されている、ということです。

単なる医学だけでは、
患者さんが病気と闘ったり、
苦しみの中に意義を見出したりする
手助けをすることはできません。

患者の話を聞いてその意味を把握して尊重し、
その上で患者の身になって行動する能力が
医師には必要だと述べられています。

物語医学がめざしているのは、患者との共感


 「物語だけで病気を治すことはできないが、
  物語が現代のテクノロジーと結びついた時、
  素晴らしい癒しのパワーを発揮する」



もちろん物語だけで病気を治すことはできませんが、

「物語が医学と結びついたときに
素晴らしい癒しのパワーを発揮する」

ということを知っていると、
愚痴が宝の山になってきます。

このように視点を変えるだけで、
愚痴や不定愁訴というものが、
非常に興味深いものに変わります。

それまで嫌々聴いていた語りを、
関心を持ってしっかりと聴けるように変わっていけると、
仕事上のストレスも
かなり軽減されるのではないでしょうか。

結論:自分のための医療をちょっとやめてみる

さて、結論です。

医療現場でストレスを感じたり、
心が辛くなってきたら、
もちろん休養や環境整備なども必要ですが、
エネルギーを浪費する心の姿勢、
つまり「自分のための医療をちょっとやめてみようか」
と思ってみることです。

この「ちょっと」がポイントです。

何事も完全主義はいけませんので、
ちょっとやめる、のがコツです。

ちょっとやめて、そろそろこのあたりで、
患者さんのためにできることを、
一生懸命にやってあげようかなあと、
あまり気合入れすぎる必要はありませんが、
そういう心の方向に変えていくことかな
と思います。

最強のセルフケアの方法:「患者さんたちから支えられてきた自分」を実感すること

そして、最強のセルフケア方法ですが、
それは、実は私たち自身が、
患者さんたちに支えられてきていると
心から実感することだと思います。

私は今まで、
医療現場で多くの人をサポートしてきたと思っていたのですが、
実は、私自身が患者さんたちに支えられて
ここまで成長してきたということにある日、
気づいたとき、静かな感動を覚えました。

今も、患者さんたちからの感謝の思いに
自分が支えられていることがよく分かります。

患者さんたちから発されているエネルギーを、
ありがとう、と感謝して受け取る心の余裕が
やはり大切なことかなあと思っています。

この人間対人間の心の交流が、
医療者のセルフケアのためには、
一番重要なことだと思っています。

以上です。ご清聴、ありがとうございました。
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